2026/7/1
今日はいよいよプレーケストーレンへ向かう。楽しみでもあり、体力に自信のないわたしにとっては、不安でもあった。
それにしても、これ以上ないくらいの晴天である。今回の旅行でいちばんの天気となった。明日からは雨の予報だというから、なんという幸せ。
プレーケストーレンへ向かう前に、まず「スヴェル・イ・フィエル(岩に刺さった剣)」に立ち寄る。
ハフルスフィヨルドの戦いを記念して造られた、三本の巨大な剣のモニュメント。この戦いは、ノルウェー統一につながる重要な戦いだったとされている。
岩に深く突き刺さった剣には、「この剣が二度と抜かれることはない」という、戦いの終結と平和への願いが込められているのだそう。静かな海を背に立つ三本の剣は、近くで見ると思っていた以上に大きく、力強い。
すぐそばの浜辺では、家族が朝食をとっていた。こんな景色を眺めながら、朝の時間をゆっくり過ごす。なんと贅沢な時間だろう。
再びバスに乗り、プレーケストーレンへ続くハイキングコースの入口に到着した。
登り始めると途中にトイレはないとのこと。ここでしっかりと準備を済ませ、いよいよ出発する。
時刻は10時少し前。寒くも暑くもなく、歩き始めるにはちょうどよい気温だ。青空の下、足取りも自然と軽くなる。
とはいえ、初めから飛ばすわけではない。現地ガイドさんについていき、平らな場所では休憩をとり、水分を補給しながら進んでいく。
コースには、大きな岩を積み重ねたような急な場所もある。一歩ずつ足を置く場所を確かめながら登っていく。
およそ3分の1まで来た。ここからいったん少し下り、その先にコースでいちばんの急斜面が待っているらしい。
いよいよ急な登りに入る。皆、足元を見ながら黙々と登っていく。会話をする余裕もなくなり、自分の呼吸と、石を踏む靴音だけが聞こえる。
振り返ると、この景色。いつの間にか、ずいぶん高いところまで登ってきたのだと実感する。疲れてはいるが、眼下に広がる風景を見ると、また少し元気が出てくる。
ようやく半分を超えた。この先は平地が続くようだ。
途中に小さな湖が現れた。青い空と岩山に囲まれた水辺は涼しげだが、ここまで歩いてきた身体はかなり熱くなっている。半袖のTシャツも汗で濡れてきた。
3分の2を超えた。数字で見ると、頂上がぐっと近づいたように感じる。もう少しだ。
岩の道はまだ続く。足はだんだん重くなってきたが、すれ違う下山中の人たちを見ると、その先に目的地があることだけはわかる。
前方を見ると、空が大きく開けていた。もしかして、あそこか?疲れていたはずなのに、急に気持ちがはやる。
わぁ、見えてきた。岩壁の向こうに、深い青色のリーセフィヨルドが姿を現した。ここから先には柵などなく、切り立った崖のすぐそばを進んでいく。写真では見ていた景色だが、実際に目の前にすると、その大きさも高さもまるで違って感じられる。
ついに到着した。ここまで、およそ2時間。目の前には、言葉を失うほどの光景が広がっていた。
垂直に切り立った岩壁、そのはるか下を流れるフィヨルド、幾重にも重なる山々。こんな場所に自分の足で登ってきたのだと思うと、達成感と嬉しさが一気に込み上げてきた。
希望者は、上の写真の右側に見える岩を登っていく。せっかくここまで来たのだから、わたしも付いて行ってみることにした。
登った先からは、プレーケストーレンの岩の上にいる人たちを見下ろすことができた。広い岩盤も、ここから眺めると、巨大な山から突き出した一枚の板のようにも見える。
青空で、光がまぶしい。フィヨルドの水面も鮮やかな青色に輝いている。これほどの晴天に恵まれたことが、ただただ嬉しい。
岩の上に座り、ホテルが用意してくれたランチボックスを開く。パンにたっぷりマヨネーズを塗ってハムとチーズを挟み、サンドイッチにして食べた。リンゴやスナックも入っていたが、景色と達成感だけで胸がいっぱいになり、それ以上はもう、手が伸びなかった。
普段は自分の写真をほとんど撮らないが、ここでは添乗員さんに撮ってもらった。
崖の端でジャンプしている人ではなく、その横で後ろを向き、両手を広げているのがわたし。そんなギリギリの端までは怖くて行けないのだ。
こうして、「最高かよ」と言いたくなるような青空のもと、念願だったプレーケストーレンの絶景を心ゆくまで楽しんだ。
ところで、、この場所が『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』のロケに使われたことを知った。シリーズは全作観ているはずなのに、どの場面だったのか思い出せない。
そこで、帰国してから改めて観てみた。あぁ、ヘンリー・カヴィルが CIAのエージェントとして出演していた、あの作品か。終盤、カシミールという設定で、イーサン・ハントとヘンリー・カヴィル演じるウォーカーが崖の上で戦う場面が、ここプレーケストーレンで撮影されていた。
いやはや、一体どうやって撮影したのだろう。映画だとわかっていても、怖すぎる。ちなみに、わたしは次のジェームズ・ボンド役にヘンリー・カヴィルを推す派なのだが、どうなるだろうか。
名残惜しいが、そろそろ下山する時間となった。今度は皆でゆっくりと来た道を下っていく。
無事に下山したあとは、全員が揃うまで、先に降りてきた人たちとアイスクリームを食べて待った。疲れた身体に冷たさと甘さが染み渡る。登山のあとのアイスクリームは、格別だった。
バスに乗り、ホテルへ戻る。夕食までは自由時間だ。
足は疲れていた。登るときよりもむしろ下山時に体重がかかる足先が痛い。ちゃんとした登山シューズを持ってこなかったことを遅まきながら後悔した。
シャワーを浴びて、部屋でのんびりすることも考えたが、やはり街の様子も観てみたいと思う気持ちのほうが勝り、ひとりで散歩に出ることにした。
ホテルの前の道路には信号がなかった。反対側へ渡りたいのだが、車が途切れず、なかなか渡ることができない。困っていると、通りがかった自転車の男性が、わざわざ自転車を道路に対して横向きに止め、車を制して、わたしを渡らせてくれた。なんと親切な。お礼をいい、頭を下げながら道を渡った。
まずは中心部にある公園へ。明るい日差しの中、芝生や木々の緑が鮮やかだ。プレーケストーレンの荒々しい岩山から戻ってきたばかりなので、整えられた街の緑がどこか新鮮に感じられる。
港のほうへ進むと、たくさんのテントが並び、大勢の観光客で賑わっていた。
わたしの中では、スタヴァンゲルはプレーケストーレンへ向かうための拠点というイメージしか持っていなかったのだが、歩いてみると、それとは関係なく、多くの人が訪れる港町なのだと実感する。
「ファルゲガータ」、英語でカラーストリートと呼ばれる小さな通りにやってきた。建物はピンクや水色、黄色など鮮やかな色に塗られ、通りそのものが明るく華やかだ。
カフェやバーが軒を連ね、店先のテーブルには多くの人が座っていた。ここもたくさんの観光客で賑わっている。
雑貨を扱う店もあり、立ち寄ってみた。店内に並んでいるものもセンスがよく、かわいらしい。色鮮やかな通りを眺めながら歩いているだけでも楽しい。
続いて、ガムレ・スタヴァンゲルと呼ばれる旧市街へ向かう。ここには、18世紀から19世紀に建てられた、小さな白い木造家屋がまとまって残されている。
先ほどまでの賑やかな港やカラーストリートから一転し、こちらはひっそりと静かな住宅街だ。
人が実際に暮らしている家の間を歩いているため、勝手にお邪魔してよいのだろうかという気持ちにもなる。しかし、わたし以外にもカメラを手にした観光客が何人も歩いていたので、やはり街の観光名所なのだろう。
そして、ここでモフモフ君に出会った。
やはり寒い国では、このくらいモフモフしていないとね、などと思いながら近づいていくと、猫のほうからもこちらへ歩いてきた。ふさふさした毛並みと、吸い込まれそうな青い目が美しい。
ひとつひとつの家は素朴だが、白い木造家屋が連なる街並みは、統一感があって美しい。白い壁、オレンジの屋根、水色の窓が、まるで絵本みたいだ。
人々の暮らしを感じさせながら、昔の港町の面影も残しているようにもみえた。
白い壁に色鮮やかな花がよく映える。観光客が訪れる地区ということもあるのだろうが、どの家も庭先や窓辺まできれいに手入れされていた。
気がつけば、そろそろ18時。ノルウェーの旗に見送られながら、ホテルへ戻ることにした。
朝からプレーケストーレンに登り、下山後にはスタヴァンゲルの街まで歩いた。足はもう十分すぎるほど疲れていたが、晴天のもとで念願の絶景を見ることができ、街の散策まで楽しめた、忘れられない一日となった。
(つづく)